散る散る満ちる、春が散る。
桜の花の命は満ちて、春をのせて散り注ぐ。
全ての生命が息吹く。
その中でたったひとり、君は泣くのか――。
昼休みももう終り、昼食に出ていたクラスメートもほとんど教室に帰ってきていた。
今日も姫川に会えた。
しかも話せた。
たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに幸せな気分になるんだろう。
その気持ちが、姫川が他の男友達とは違うことを僕に再確認させる。
「ほら、授業はじめるぞー」
次の授業の先生が入ってきて、みんなの最後の昼休みの余韻を吹き消す。
(次は現国か・・・)
のろのろ教科書を開き、窓下のグランドに目をやる。
桜並木――。
今はもう、あの桃色の優しい木ではなく、力強い青々とした葉桜。
姫川を初めて見たのは、あの桜並木の下だった。
「しつこいんだよ、最近!今朝も、『高校の学費、誰が出してると思ってんの!』とか言っちゃってついて来ようとするしさ――」
中学からの友人、上町は今朝会った時からずっとこの調子。
確かに高校生にもなって付き添いはカッコワルイから、僕も母さんの申し出は断っておいたけども・・・上町の母親拒絶は最近ヒドイ。
(これが思春期ってヤツかな・・・上町のおばちゃん、良い人だけどな・・)
僕は上町の言い草に、心の中でおばちゃんにちょっと同情しつつ、頭上に広がる桜の空を見上げた。
――桜舞い散る入学式。
絵に描いたようなシチュエーションに、僕はひとりでクスリとしてしまった。
入学式に桜とは、なんてお似合いな組合せ。
でもよく考えてみると、”新入学”というこれから新しいことが始まる行事に、花の終わり、散っていく桜がお似合いなんて、ちょっと矛盾しているとゆーかなんとゆーか。
(対照的だな・・・)
ま、たまたま季節が合うからってことだけだろうけど、別れと出会いが入り混じって、なんとも複雑な気分にさせられる。
「その時も余計なことしてさ―――」
上町の家庭内のグチはまだ続いていた。
とはいっても、僕に言っているわけじゃなく、一人でブツブツゴチている。
サァ・・・・
「うわっ」
春特有の強い風が、桜の枝から花びらを絡め取る。
それが見事に僕の視界を薄ピンクに染めた。
(キレイだな・・・)
母さんには「来ないでいい」とは言ったものの、この見事な桜並木を見せてあげられなかったことに、少し後悔と罪悪感を感じた。
(ん・・・?)
ふと、桜並木の奥に、人影が見えた。
男が桜の根元に立って、僕と同じ様に桜を見上げている。
(制服・・・同級生?あの人も、桜が好きなのかな)
知らない人だけど、小さな共通点がうれしくて彼を見つめた。
桜を見上げているその横顔は、同性の僕でもひきつけられるものだった。
顔が整っている・・・せいもあるけど、なんていうか・・・今にも花吹雪にのって消えちゃいそうな。
みつめてないと、いなくなっちゃいそうな・・・そんなカンジ。
「戸野田、何見てんの?」
「・・・うーん」
上町の問いかけにも生返事になる。
僕は彼から目が離せなくなっていた。
その時、桜を見上げたままの彼が、両手で顔を覆った。
そして彼は立つことも出来ないほど・・・涙が止まらない。木の根元にしゃがみこんだ。
彼は、桜をみていたんじゃない。
上を向いて、涙を堪えていたんじゃないか。
きっと彼には、この満開の桜は写っていない。
今の彼には、涙を堪えることが最優先事項だったに違いないから。
なぜなら、立っていられない程の涙を流しても、彼は嗚咽ひとつもらさない。
僕は、同じくらいの年の男が泣いている事態にも面食らったが、それ以上に寂しい気分になった自分に驚いた。
さっき勝手に芽生えたばかりの仲間意識が裏切られたことが寂しいんじゃない。
こんなにキレイなものを心に入れられない程、悲しんでいる彼の心を可哀想に思った。
二回目に姫川を見たのは、入学式中の講堂。
ここで僕は初めて彼の名前を知った。
「新入生、挨拶。姫川・・・・・・」
「はい」
淡々と述べるそつのない挨拶が、マイクを通して講堂に響く。
目を伏して原稿を読むその様は、さっきの儚いイメージとは程遠く感じた。
今の彼は機械的で、涙なんて感情的なものは持ち合わせていないくらいに見える。
(別人・・・だったのかな・・)
僕の記憶を薄れさせる程のギャップが、その姿にはあった。
そして三回目、この時になって初めて彼が泣いていた理由を知った。
彼には恋人がいたのだ。
それも同性の。
なぜわかったか?
それは、彼がモト彼に復縁を迫られてるところに、たまたま出くわしてしまったからだ。
「君が忘れられなかった・・・」
「勝手な!あなたから別れを言い出しておいて」
「勝手なのはわかってる。でも・・・」
「無理です。」
「・・・・・・」
「もう、俺の中では終ったんです。」
「・・・・・・どうしても・・?」
「もうあなたと、恋人として付き合う気はありません。・・・・木崎先生。」
<続く> ・・・何ヵ年計画?
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ーいいわけー
言い訳も出来ないほど、更新が開いてしまいました。
気にかけて下さる方(いると信じています)スミマセンm(_ _)m
今回は受け視点で出会いを書こう!とか思ったら、とにかく姫川が号泣していたことしか書けませんでした。
しかも彼はゲイで、てぃーちゃーとデキていたという2点セット。
入学式に先生に振られる新入生。
一体、彼の身に何が?!(これから考えるのですが・・・この創作に関しては一切プロット・シノプシス作ってませんので←胸を張るな)
この続きは姫川(攻め)視点で書きたいと思ってます。